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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)106号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人久保田美英、同室順五郎の上告理由は、末尾に添えた書面記載のごとくであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

上告代理人久保田美英の上告理由第一点及び第二点について。

裁判所において当事者が自白した事実はこれを証することを要せず、裁判所はかかる事実の存在することを前提として判断をなし得べきものであることは、民訴二五七条により疑ない。原審において被控訴代理人は、本件電気銅はすでに消費されて現存しないと主張したのに対し、控訴代理人は、昭和二四年三月一二日の原審口頭弁論において「本件電気銅の現存しない事実は之を認む」と述べていること記録上明らかである。それゆえ、原審が「すでに本件物品が消費されて現存していなかつたことは弁論の全趣旨から控訴人の認める所である」と判示し、かかる事実を前提として判断したことは正当であつて、原判決には所論のような違法はないから論旨は理由がない。

同第三点乃至第六点、上告代理人室順五郎の上告理由第一点、第三点乃至第五点について。

論旨は、いずれも被上告人が本件物品を訴外増田源七から割当証明書と引換に依らないで買受けたのは法令に違反する不法行為であるから、その占有者は民法一九二条の善意無過失の要件を欠き、同条により権利を取得するものではないと主張している(論旨中には、被上告人の本件物品の取得は強行法規に違反し無効であるに拘らず原判決がこれを正当行為であるとして認容しているのは違法であるという趣旨の主張もあるが、上告人は原審において「控訴人(上告人)は所有権に基づき物の所在に追随して本件電気銅の回復を請求できるから本訴で物権的請求権を主張するもので、被控訴会社(被上告人)が控訴人主張の統制法規に違反したことを理由として被控訴会社の売買の無効を主張して右物品の返還を請求するものでなく」被控訴人の電気銅の取得は、たとえ盗品たることを知らなかつたとしても、民法一九二条にいわゆる「善意にして且つ過失なき」取得に該当するものではないと主張したこと記録上明らかであるから、上告人の前記主張は、被上告人の本件物品の取得が民法一九二条所定の善意無過失の要件を欠くとの主張の理由として述べられたに過ぎないものと認める)。しかし、民法第一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し、且つかく信ずるにつき過失のなかつたことを意味するのであり、その動産が盗品である場合においてもそれ以上の要件を必要とするものではない。原判決は、被上告人は本件物品が盗品であることを知らず、従つて訴外増田源七が本件物品の非所有者であつたことを知らなかつたことにつき過失のなかつたものと判定しているのであつて、原審挙示の証拠によれば原審が右判断の根拠とした事実は認められ該判断も正当である。また、原判決が被控訴会社(被上告人)に過失ありとするには「被控訴会社の方で増田商店が本件物品の非所有者であることを知らなかつた点において相当の注意を欠いたことの証拠を必要とするに拘らずさような証拠はない」と判示したのは、被控訴会社が善意、無過失であつたとの前記認定事実を覆す反証のないことを説示したものであつて、論旨(久保田代理人上告理由第六点、室代理人上告理由第三点末段)にいうように、挙証責任の法則を誤つたものではない。それゆえ、原判決には所論のような違法はなく論旨はいずれも理由がない。

上告代理人室順五郎の上告理由第二点について。

原判決の認定した事実は、被上告人(被控訴会社)が本件物品を同種の物を販売する商人たる訴外増田源七から盗品と知らないで買受けたというのであるから、かかる場合は民法一九四条に該当するか否かが問題となる場合であつて、論旨に主張するように、同法一九三条により単純に盗品の回復を請求し得る場合ではない。それゆえ、民法一九三条の適用を主張する論旨は理由がない。

同第六点について。

本件電気銅が現存しない事実は、原審において当事者間に争がなかつたのであるから、原審がかかる事実を判断の前提としたことにつき違法のないことは久保田代理人上告理由第一、二点に対して説明したとおりである。そして、原審は民法一九四条により占有物を回復するには、その物の現存することを前提とするところ、本件物品は現存しないのであるから、上告人の請求は失当であるとしてこれを排斥したものであつて、その判断は正当である。それゆえ、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条九五条八九条に従い、裁判官全員の一致した意見により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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